EMCとは
エンジニアにとって、製品開発終盤に大きな壁として立ちはだかるものの一つにEMC試験があります。
EMCとは、Electro-Magnetic Compatibility(電磁環境適合性)の略であり、
メーカの製品には電磁環境適合性を達成できる証明として、EMC試験に合格する必要があります。
試験には様々な種類がありますが、大きく以下の2つの試験に分けられます。
➀エミッション試験
電気製品から放射又は伝導される電磁妨害(EMI)が、他の電子機器やシステムに干渉を引き起こさないの容認可能なレベルであるか
➁イミュニティ/サセプタビリティ試験
電気製品が、電気的過剰ストレス(電磁妨害、静電気放電、雷など)にさらされた際、有害な影響を受けず、適切に動作し性能を発揮することができるか
このEMC試験に合格した証明がないと、製品を世界で販売することができません。
電気点で売られてる製品のどこかに「CE」のマークが表示されていると思いますが、
これは製品をEU加盟国で販売する際に、EMC試験を含めた安全基準条件を満たした証明となるマークです。
自分はメーカのエンジニアなので、製品開発の終盤に毎回この試験に合格するため奮闘しています。
最近は順調にパスできていますが、以前はなかなか上手くいかなくて、幾度となく頭を抱えたものです。なので、新製品開発の終盤になると少し憂鬱な気持ちになっちゃいます。
放射電磁妨害(不要輻射)測定
さて、今回は、EMC試験の中で特にNGとなりやすい放射電磁妨害(不要輻射)測定に対して、経験した問題と対策を備忘録として記載します。
(パターン設計などEMCを考慮した設計事例は比較的ネット上に情報があるでの省きます。)
放射電磁妨害(不要輻射)測定は、機器から放射される電磁波が規格内のレベルであることを確認する試験ですが、測定の前に、その機器で使用しているクロック周波数を一覧として、ある程度の倍数(高調波)まで計算しておき、測定したデータのピーク周波数がどこから出ているのかを特定し対策を行います。
➀プロセッサコアクロックとRAM通信クロックが放射
[問題]
プロセッサのコアクロックやRAMとの通信クロック、その高調波の不要輻射が放射されて規格をオーバーしていた。
[原因]
プロセッサとRAMの真上の空間にFFCハーネスが通っており、そこにノイズが飛び乗って、FFCハーネスの接続先基板など様々な場所からノイズが放射されてしまっていた。
[対策]
FFCハーネスの配線ルートを変更しました。(配線ルート検討の時に気づくべきでした…)
高速クロックで動作するIC近傍は配線ルートを避けるべきです。
➁プロセッサのコアクロックが放射1
[問題]
機器全体からプロセッサのコアクロック(数百MHz)の不要輻射が放射されていた。
[原因]
プロセッサGPIOポートからのパターン及び内部配線、そして内部配線の接続先基板からの不要輻射が原因であった。
複数のGPIOパターンが基板を横切るように並走し、非常に長く配線されており、プロセッサからのノイズ電流が増大されてしまった。
(この時はプロセッサからコネクタまで、20本のパターンが150mm程度並走していました。)
そして、増大されたノイズが内部配線や接続先基板から放射され、さらには周辺の様々な箇所に飛び移ってしまっていた。
[対策]
基板パターンの終端箇所(コネクタ根本)で、信号-GND間にパスコンを追加した。
容量は不要輻射の周波数により選定しますが、数百pFです。この対策で20dB近くの改善がありました。
パターンが長くなってしまう場合は、途中、抵抗やフェライトビーズなど何かしらの部品で分断したり、あらかじめパスコンを追加するなど考慮が欠けていました。
③プロセッサのコアクロックが放射2
[問題]
プロセッサの基板上部からコアクロック(数百MHz)の不要輻射が放射されていた。
[原因]
この時は2種類のプロセッサがあり、仕様により電源系統を分けていましたが、GNDを電源回路部以外でも接続してしまっており、
大きな電流ループができることで強い磁界発生し、不要輻射が放射されてしまった。
[対策]
対策は単純で、電源回路部以外のGND接続箇所を切断しました。
異なるGNDの接続は基本1点とし、ループが発生するようなGNDの多点接続は避けるべきでした。
④LEDダイナミック点灯の周波数及び高調波が放射
[問題]
複数のLEDをダイナミック点灯させた際の高調波が放射されていた。
[原因]
LEDのダイナミック点灯では、一定の繰り返し周期をもつ矩形波でLEDを点灯させていました。
矩形波は、正弦波にその正弦波の高調波を足し合わせていったもので形成されますが、1箇所の放射パワーは小さくても、複数箇所の放射パワーが足し合わされ、規格を超える値となっていました。
[対策]
対策として、LEDとLEDドライバ間に、直列にフェライトビーズを挿入したり、EMI除去フィルタを挿入したりと、有効且つ簡単な対策はありますが、複数箇所に挿入するにはコストが大幅にアップしてしまうため、簡単には採用できません。
今回は、LEDとGND間に並列にコンデンサを追加し、波形をなまらせ高調波成分を削減し対策としました。
コンデンサの容量が大きすぎると、波形がなまりすぎてLEDが点灯できなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
以上、原因が分かり易い事例を挙げましたが、細かい問題は沢山ありました。
新規事例などがあれば、引き続き更新していきたいと思います。
次回は静電気放電(ESD)試験の問題と対策をまとめたいと思います。